EHP2005年10月号 Focus
内分泌かく乱物質は性の境界を不鮮明にしているか?

情報源:Environmental Health Perspectives Volume 113, Number 10, October 2005
Are EDCs Blurring Issues of Gender?
By Ernie Hood
http://ehp.niehs.nih.gov/members/2005/113-10/focus.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2005年10月 4日
更新日:2005年12月20日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehp/05_10_ehp_Forcus_EDCs.html


 科学者らは内分泌かく乱物質(EDCs)への曝露の広範なヒトの健康影響を自明なこととして仮定してきたが、その論争は、両親及び小児期のEDCsへの暴露がヒトの性における様々な異常、性の発達と行動、生殖能力、そして出生性比などに影響しているかもしれないという懸念に関連している。科学者らは今日、潜在的なヒトへの影響について難しい問題を提起している。EDC曝露は男性又は女性の生殖能力を損なうか? 性器官の異常、生殖能力発達の阻害、又は睾丸がんや乳がんを引き起こすことがあるか? 胎児のEDCsへの暴露は性の発現を変えるか? それらは後に性に関連する神経生物学的特性と遊びや空間認識能力のような行動を変化させるか? そのような曝露はあいまいな性を持って生まれる子どもと関係があるのか?

 EDCsは、性ホルモン受容体と経路に関連する既知の又は疑いのある作用にしたがって緩やかに分類することができるある範囲の物質である。最もよく研究され最もよく知られている物質は環境エストロゲンであり、それらはエストロジオール様の作用をし、エストロゲン受容体(ERs)を結合する。ER作用物質には、殺虫剤メトキシクロル、ある種のポリ塩化ビフェニル類(PCBs)、ビスフェノールA(BPA:ポリカーボネート・プラスチック製造に用いられる高生産量物質)、ジエチルスチルベストロール(DES)やエチニルエストラジオール、及び自然界の多くの植物、特によく知られているのが大豆中のゲニステインなどの植物性エストロゲンなどが含まれる。ER阻害物質又は抗エストロゲン物質なども少し知られている。抗アンドロゲン物質又はアンドロゲン受容体(AR)阻害物質には殺菌剤ビンクロゾリン、DDTの代謝物質 pp'-DDE、ある種のフタル酸エステル類(ポリ塩化ビニルの可塑剤として使用される化学物質のグループ)、及びその他のPCB類が含まれる。特定の内分泌ターゲットに影響を与えるその他のタイプのEDCsもある。様々なEDCsは天然のホルモンに関連する効能及びターゲット受容体への類似性において大きく異なる。あるものは受容体非介在メカニズムを通じて作用することが示されている。

 DES、ある種のPCB類、そしてDDTのような既知のEDCsへの胎児の高レベル曝露に関する多くのよく文書化された事例では、曝露が性に関連する影響と関係があるかどうかという問いに対して答えは明確に YES である。しかし、これら高レベル曝露は比較的まれで個別的である。今日の論争は、一般的に環境関連レベルに近い用量として定義される低用量曝露、及び子宮内での発達の重要な時期(critical windows)におけるあるEDCsへの低用量曝露が胎児の発達と成人してからの結果に深遠で永久的な影響を与えることがありえるという見解に集中している。

 この見解への批判は、低用量曝露がヒトへの有害な健康影響を及ぼすことを示す信頼性ある証拠がないと主張していることである。しかし、もし低用量曝露は有害影響を及ぼすという概念の主張者が言うとおり低用量曝露の脅威が確認されたなら、公衆の健康は明らかにリスクにさらされ、規制当局のリスク評価のアプローチは修正が必要となり、大量に生産され経済的に重要なものを含むいくつかの化学物質は市場から消えることになるであろう。

 『環境健康展望 Environmental Health Perspectives(EHP)2000年6月号』のEDCsに関連するヒトの健康問題に関する記事の検証において、テキサスA&M大学環境遺伝子医学センター所長ステファン・セーフは、”ヒトの疾病における内分泌かく乱物質の役割は完全には解明されていないが、現状の証拠には思わず引き込まれるようなものはない”と結論付けた。ミズーリ−コロンビア大学の発達生物学者フレデリック・ボンサールは、特にセーフの検証の後の数年間に発表された研究に照らして異なる意見を持っている。”ヒトへの影響に関しては結論が出ていないわけではない。我々が動物実験で持っている情報量とヒトについて持っている情報量には非常に大きな相違があるが、EDCsがヒトに影響を与えるかどうかに関して結論が出ていないということとは大きな違いがある”。しかし、この二人の科学者がともに合意することは、現時点では答えよりも疑問の方がまだ多いということである。

複雑なプロセス

 視床下部、下垂体、精巣、卵巣、甲状腺、副腎、及び膵臓からなる内分泌システムは、身体の重要な情報伝達ネットワークのひとつである。それは精密な化学的伝達者として作用するホルモンを分泌することで特定の組織や器官の機能を調節する。生殖システムの発達と調節は内分泌システムの主要な機能のひとつである。

 性の決定と発達は胎児性腺の精巣又は卵巣への分化により妊娠初期に始まる。もし、SRY遺伝子がY染色体上にあれば、それが活性化されると最終的には必要な全ての男性器官と機能を正しく備えた男の赤ちゃんの出生をもたらす複雑な一連のホルモン事象を引き起こす。SRY遺伝子がないと最終プロセスの結果は女の赤ちゃんとなる。女性の発現は哺乳類の生殖的発達の経路で”デフォルト”であると考えられる。

Y の疑問。CB-153 と p,p'-DDE に曝露した漁師に関するスウェーデンの研究は、これらの化学物質と Y-染色体精子の高い比率との深い関係を示し、EDCs への暴露が男児の女児に対する性比率を歪めることを示唆している。(イメージ図)
 性的器官の分化と発達は、内分泌システムによって生成されるエストロゲンやテストステロンなど様々な性ホルモンに導かれて妊娠期間を通じて継続する。男女ともに等しく生殖系発達の全プロセスは、特に発達期の”クリティカル・ウィンドウ”期間中には性ホルモン・レベルのほんの僅かな変化にも鋭敏に感応する。

 1989年の間、”アニマル・サイエンス”に発表された論文で、ボンサールは一連のマウス実験でこの感受性を実証した。これらの研究は、多胎出産種においては胎内で隣接するオスとメスの胎児はお互いに微量のホルモンを授受することが可能であり、明白な発現結果を伴うということを示した。”我々は、約1ppbのテストステロンと約20pptのエストラディオール(内因性エストロゲン)の相違が実際に全く異なる脳の構造、行動特性、酵素レベル、組織中の受容体レベル、血中のホルモン・レベルを引き起こすということーあなたはこれらの動物でそのような違いはないと考えるかもしれないが−を発見した”とボンサールは述べている。

 そのような絶妙に時機を選んで正確に制御されたプロセスはEDCsへの曝露から生ずる無数の不安の機会を与えるものである。これらの化学物質はホルモン作用を模倣し、ホルモン反応を複製、誇張、阻止、変更することによって、広範で様々な方向で分化と発達をかく乱することができる。発達中の胎児と生後間もない新生児は、成人に見られる化学物質の解毒と分解を助ける保護的代謝メカニズムやホメオスタシス(訳注:生物体が体内環境を一定範囲に保つはたらき)を恐らく持っていない。また、胎児は組織が急速に分裂し分化しており、そのような高い細胞活動は正常な発達に対するかく乱に対して脆弱である。大人に比べて胎児やこどもの体は小さく、曝露レベルはターゲット組織に到達する相対的用量に関して言えば増幅されるかもしれない。そして、時には外因性EDCsは原形質ホルモン結合たんぱく質に非常に低い結合しか示さないので、体内を結合しない状態で移動し未知の影響を引き起こすかもしれない。

 胎児へのEDC曝露の影響について解明されるべきこととして残る多くは健康と疾病の発達原点(developmental origins of health and disease )と呼ばれる新しい概念に関するものである(最近まではもっと一般的に胎児ベースの成人疾病として知られていた)。”人々は、これは全くひとつの可能性であると今まさに認識し始めている”−と、数十年間を外因性エストロゲン、特にDESの影響について研究している内分泌かく乱物質研究のパイオニアである国立環境健康科学研究所I(NIEHS)の科学者レサ・ニューボールドは述べている。”EDCsへの発達期の低用量曝露は奇形やあなたが見ることができる、あるいは即座に問題として認めることができる何かをもたらすことはないかもしれない。しかしそれは、代謝の変更、後々にがんを発生させる変更、あるいは不妊を引き起こす変更のような長期的影響をも持つ可能性がまだある”−と彼女は述べている。

影響の証拠

 EDCs曝露に関連する生殖及び発達異常は現在、鳥類、カエル、アザラシ、ホッキョククマ、海洋軟体動物、その他多くの野生生物種に見られる。例えば、周辺での過度な農業活動、下水処理施設の存在、そして1980年のDDTやDDEを含む殺虫剤の流出のためにフロリダで最も汚染されている湖のひとつアポプカ湖のワニは”メス化”していることが示された。すなわち、動物学者ルイス J. ギレッテ Jr.と同僚らは、オスは短いペニスと低レベルのテストステロン(訳注:精巣から分泌される雄性ホルモン)を持ち、一方メスは過度なエストロゲンを持つと『環境健康展望(EHP)1994年8月号』で最初に報告した。

 (他の性機能をも併せ持つ生殖器官を有する性成熟した動物における)性の反転や(ひとつの性の出生比が他の性よりも異常に大きい)性比の歪みがいくつかの魚群、特にパルプと製紙工場や下水処理プラントの近くに住むコロニーで見られる。

 他の報告書には水源に排出された女性の避妊用ピルによるEDCsに暴露したことによる野生生物の生殖影響が示されている。

 野生生物集団に見られる有害影響の多くはラボ実験で再現されており、それらの発現におけるEDCsの役割は確認されている。それらの論文の中に、『環境健康展望(EHP)1997年5月号』にギレッテ、D. アンドリュー・クレインと 同僚らが再現したワニのステロイド合成(性ホルモンの生成)がある。もっと最近では『EHP2004年11月号』で、ジョン・ナッシュと同僚らは、医薬品エチニルエストラジオールの環境濃度での長期ラボ曝露がゼブラフィッシュに生殖障害を引き起こすことを示した。

 純粋応用化学連合環境/国際問題科学委員会(SCOPE/IUPA)の『純粋応用化学75巻2003年12月11日号』に発表された報告書によれば、200種以上の動物種がこれらの化学物質で影響を受けていることが知られているかその疑いがある。”野生生物における内分泌かく乱の証拠の重みは実に圧倒的である”とラトガース大学細胞生物学及び神経科学教授であり、SCOPE/IUPACプロジェクトを指導したジョアンナ・バーガーは述べている。

 SCOPE/IUPA報告書は内分泌かく乱のヒトへの影響の程度について明確さが不十分であった。”ヒトの集団にとってEDCsへの潜在的暴露によるリスクが深刻であるかどうかについて最終結論に達するには時機早尚であり、さらなる警戒が明らかに必要である”と著者は書いている。”しかし、過去10年間に多くの研究が行われたが、EDCsへの低用量環境曝露がヒトに疾病を引き起こすという決定的な結果が出ていないということは幾分、安心させられる。”

 しかし、この報告書はさらに次の点を指摘している。”化学物質のステロイド合成と代謝への干渉は、たとえ誘引される物質がEDCを用いた受容体ベースのテスト・システムで検出されなくても、有害な健康影響を引き起こす可能性がある。動物で起きる内分泌かく乱のいくつかの例として、5a−還元酵素やアロマテーゼのようなステロイド合成酵素抑制剤への曝露に由来するものがあるので、これは重要な研究分野である。それら抑制剤のあるものはヒトにも活性であり、ある範囲のヒトのホルモンの病気の治療に好結果をもって使用されている”。著者らはそのような影響の評価には、試験管内テスト(in vitro)及び生体テスト(in vivo)の技術を取り入れた総合的な審査が求められるであろうとしている。

 世界保健機関の化学物質に関する国際プログラムによって2002年に発行された包括的な報告書『内分泌かく乱物質の科学最先端の世界的評価』も同様な結論に達している。この報告書は次のように述べている。”ある種の環境化学物質が正常なホルモン・プロセスを阻害するということは明白であるが、ヒトの健康が内分泌活性化学物質に曝露することによって有害な影響を受けたという証拠は乏しい。しかし、有害な内分泌介在影響がいくつかの野生生物種で起きていると結論するに十分な証拠がある”。このグループは、今日までのヒトにおけるEDC誘引影響の研究は矛盾する、そして結論に達していない結果を導き出しているという事実を引用しながら、その証拠の特性を弱いものとして説明しているにもかかわらず、次のように書いている。”その分類はEDCsの潜在的影響を軽視するということを意味するのではなく、むしろもっと確固とした研究が必要であるということを強調している”。

 『世界的評価』はさらに、ヒトがEDC曝露に感受性が高いことを示す証拠は、現在は高レベル曝露の研究によって示されているだけである−と述べている。実際、子宮内でのEDC曝露はヒトの生殖系発達と生理機能を変更することができるという明白な証拠がある。最も完全に特性を明らかにした事例は、1940年代から1970年代にかけてアメリカやその他の場所で流産を防止するため数百万人の妊婦に投与された合成エストロゲン、DESである。この薬は、投与された女性の娘や息子に有害な様々な生殖系影響を与えるとともに、DES服用女性の数千人の娘に膣がんを引き起こしたことが知られている。

 このDESの状況は胎児期におけるEDC曝露−強いエストロゲン作用を持つ化学物質を高用量で意図的に投与した−の最悪シナリオとして見ることができる。別の見方をすると、この事例は、比較的管理されたやり方で、単一の強力な物質に対するよく定義された明確な集団の明確な曝露によって、胎児期のEDC曝露の影響を研究する貴重な機会を研究者に与えたということができる。

 研究を通じて、ニューボールドはDES曝露のマウスによるモデルを開発したが、それはDESとその他の環境エストロゲンの影響、特に後の人生においてのみ明白となるかもしれない結果を研究する上で非常に有用であった。”この実験モデルを用いれば、より弱い環境エストロゲンについて答えを与えてくれる多くの質問をすることができる。我々は曝露のタイミングや曝露量を変えることができ、また異なるターゲット組織を見ることができる”と彼女は述べている。

 この動物モデルはヒトのDES曝露で報告された多くの異常を再現し、またいくつかのヒトにおける結果を予測した。”我々は、マウスDES曝露に見られるオスの停留睾丸やメスの卵管異常など多くの生殖異常はヒトのDES曝露においても生じるということが後になって報告されたことを示す多くの文書を発表した(原注:例えばthe October 1985 issue of Cancer Research and volume 5, issue 6 (1985) of Teratogenesis, Carcinogenesis, and Mutagenesis)”とニューボールドは述べている。

フタル酸エステル類関連

 しかし、動物実験データとヒトにおける結果との間の確かな関連は、特に環境レベルでの(すなわち、流出やその他の急性汚染事故などと無関係な)環境EDCsへのヒトの暴露と有害な健康影響との間の関係が示されるようになって、証明されはじめた。このことはひとつの化学物質のクラス、フタル酸エステル類で起きている。

 フタル酸エステル類は、溶剤、軟質プラスチック、化粧品など様々な消費者製品中で共通に使用されている。国家健康栄養調査は、アメリカ国民のほとんどはいくつかのフタル酸エステル類により測定可能な体内汚染をされているということを示した。げっ歯類におけるフタル酸エステル類への胎内曝露の影響に関しては非常に多くの文献がある。これらの影響には子宮内曝露と肛門性器間距離(AGC)、あるいは直腸とペニス基部との距離として知られるバイオマーカーにおける動物のオスの異常との関係が含まれる。AGCは胎児期の抗アンドロゲン曝露の感度の高い尺度であることが示されてきた。この性器形態異常のパターンは”フタル酸エステル症候群”として知られるようになってきた。

 ヒトにおけるAGDとEDC曝露との間の関係に着目した最初の研究の中で、ロチェスター大学産婦人科教授シャンナ・スワンと彼女の同僚らは、多拠点妊娠コホート調査である”将来の家族の研究”に参加した85組の母子からデータを収集した。母親の尿は数種類のフタル酸エステル類の代謝物の存在が分析され、生後2〜36ヶ月の男児についてはAGDを含む性器発達特性の調査が行われ、AGDは肛門性器インデックス(AGI)として体重により標準化されとた。

 『環境健康展望(EHP)2005年8月号』で報告されているように、研究者らは明らかな生殖器異常や疾患の兆候は見出していないが、彼らは母親らの4つのフタル酸エステル類の高い代謝物濃度と幼児らの期待より短いAGIとの関連性を見出した。そして重要なことは、短いAGIはアメリカの女性集団の4分の1に見出される濃度相当でフタレートエステル類の代謝物に胎内曝露した幼児に見られるということである。AGIが短い男児らは不完全な睾丸降下(停留睾丸)であることが著しく多かった。”我々は不完全な睾丸降下は精子の質や数の低下(生殖能力の低下)、及び睾丸がんのリスク要素であることを知っている”とスワンは述べている。成人してからの結果を予測することは明らかに不可能であるが、これらの幼児は将来、睾丸発育不全症候群(TDS)となるリスクがあると彼女は述べている。

 TDSはオランダの研究者ニールス・スカッケバクと同僚らにより提示されたもので、4つの有害な男性生殖評価項目−精液の質低下、停留睾丸、尿道下裂i(尿道の位置異常)、睾丸がん−がそれぞれリスク要素であるとしている。”その考えは、睾丸の発達が胎児期に妨げられるということ、そしてこのことは出生時及び成人してからも影響を与えるということである。我々がげっ歯類に見たことは確かに何か重大なことであり、そしてこの研究は我々がヒトにTDSを見出した最初の証拠である”とスワンは述べている。

 スワンの研究は、個体群ベースの測定可能な低用量EDC曝露、観察された生理学的影響、そして堅固な生物学的基盤を初めて統合したものである。懐疑的なセーフさえ、これはEDCs及び人間の健康についての多くの疑問に答えるために開始する必要のある研究の類であると述べている。”これはよいアプローチのように見え、ひとつの関連性を示唆している。それはもろもろの原因かどうか、そして支持されるかどうか、私には分からない。異なる場所でもっともっと多くの統合された測定によって再現されることが必要である”と彼は述べている。スワンは、彼女の妊娠コホートに関して現在2歳〜5歳になっている男児及び女児の性差行動を測定することで追跡するとともに、セーフの言うことをまさに実行しようと計画している。

(訳注)スワンらの研究のOSFによる解説
 「胎児期のフタル酸エステルへの暴露で男児の肛門性器間距離が短縮」(化学物質問題市民研究会訳)

 バージニア州アーリントンを拠点とする業界団体であるアメリカ化学協議会のフタル酸エステル類審議会は、”環境に関連した用量でのヒトにおけるフタル酸エステル類に起因する有害影響については、よく確立された信頼性ある証拠はない”と審議会マネージャのマリアン・スタンレーは述べた。スワンの研究についてスタンレーは次のように述べている。”男の胎児のいくらかの影響と、いくつかのより低い分子量のフタル酸エステル類、特にフタル酸ジエチルとが関連していたが、げっ歯類では非常に高い用量でのみそのような影響は起きており、そのことは政府機関による検証によって生殖系又は発達系に対する懸念を及ぼすとは考えられていない”。

 スタンレーはまた、この研究で使用されたバイオマーカーに関する疑問を指摘している。”使用された測定については私はまだ何らかの議論の対象となると考える。げっ歯類の肛門性器官距離について、それはなんらかの指標であるが、それは間違いなく生物学的影響ではない。私はこの研究は著者ら以外の多くの人々によって過剰解釈されていると考える”と彼女は述べている。

EDCs と性比

 性比−男児の女児に対する出生比率−は世界中で非常に一定しており、典型的には女児出生100に対し男児出生102〜108である。しかし近年、EDCsに対する環境的及び職業的曝露は特定のヒトの集団において性比率を変えているかも知れないということを多くの報告書が示唆している。

 そのような研究のひとつに、『ヒトの生殖(Human Reproduction)2005年7月号』に発表されたものとして、スウェーデンの研究者らのグループが、残留性有機汚染物質 CB-153(PCBの一種)と p,p'-DDE への曝露が 精子の Y- と X- 染色体の比率に影響を与えるかどうか調査するために、149人の漁師から採取した血液と精液を分析した。彼らは、これら二つの化学物質の高められた曝露レベルは、 Y- 染色体精子の比率がより高くなることと明確に関連があることを確認した。研究者らは彼らの研究結果が、残留性有機汚染物質への曝露が子孫の性比を変える、すなわち、Y- 染色体精子の比率が高まって男児出生の比率を高めるるかもしれないという証拠を強めるものであると結論付けている。

 『環境健康展望(EHP)2005年10月号』に発表されているひとつの研究はこの問題に対し疫学的アプローチを取っている。オタワ大学医学部教授団のメンバーであるコンスタンジ・マッケンジーと同僚らは、オンタリオ州サーニアの近くにあるアアムジナン第一国家コミュニティ(訳注:カナダ先住民の居住区)の住民たちの性比が明らかに歪んでいることを報告している。彼らは過去5年間にアアムジナンでの男児出生比率が著しく低下しており、過去10年間でも程度は小さいがやはり著しく低下していることを見出した。原因となる要素は決定されなかったが、著者らは、このコミュニティの直ぐ近くにいくつかの大きな石油化学プラント、ポリマープラント、及び化学プラントがあること、及び、1976年イタリアのセベソで起きた工場事故を追跡した今までの諸研究がEDCsのような汚染物質への曝露がそのような工場施設周辺の小さなコミュニティ内での性比率に影響を与えることがあり得ることを示していることを指摘している。著者らは、コミュニティー内住民の潜在的曝露を特定するためにさらなる評価が必要であるとしている。(原注:この研究の詳細については、環境健康展望(EHP)2005年10月号 ページ A686 Shift in Sex Ratio 参照)

(訳注)マッケンジーらの研究のOSFによる解説
「カナダ先住民居住区における男児出生比率の減少」(化学物質問題市民研究会訳)

低用量曝露はどうなのか?

 いつ仮説が仮説でなくなり、いつ確認された科学的概念が規制や政策決定を進めるために準備できるのか? そのことがEDCsへの低用量暴露の生物学的活動又は有害影響に関するいわゆる”低用量仮説”に対し、いつ実現されるのがが論点の核心である。その論点はボンサールのグループが、その母親が低用量のBPAを投与されたオスのマウスの前立腺が肥大したことの発見を『環境健康展望(EHP)1997年1月号』に初めて発表して以来数年間、議論されていることである。

 今日、ボンサールの発見は十分に再現されたかどうか、及びアメリカ環境保護庁(EPA)は低用量EDCsの有害影響の可能性を反映するためにリスク評価プロセスを修正すべきかどうかについての論争がまだ強く行われている。

 低用量仮説の支持者らのある者は、リスク評価に対する従来の毒物学的アプローチはEDCs評価のためには不適切であると主張している。現在のプロトコールは、化学物質曝露に対し線形の用量依存反応を前提とし、有害影響が観察される最低レベルを決定し、安全係数を加えて日常のヒトの摂取が安全であると仮定される公式の参照用量にする。ボンサールやその他による実験は、EDCsはU形の用量反応曲線を示し非常に高い用量はもちろん、低用量−しばしば現状の参照用量より数桁低い−でも刺激される生物学的作用を持つと仮定している。

 支持者らはまた、内分泌かく乱プロセス自身、本質的に多くの他の毒物学的プロセスとは異なり、その多くがいまだにほとんど解明されていない新しい作用メカニズムを通じて様々な高い感受性の経路(特に胎児において)に影響を与えていると述べている。また彼らは、EDCsへの反応を取り次ぐ内分泌信号伝達経路は強力な増幅器として作用するようになっており、その結果、非常に低い濃度のEDCsに対しても細胞中で大きな変化を起こすと述べている。

 論争における避雷針となっているひとつの化学物質はビスフェノールA(BPA)である。ボンサールが数えたところでは、ピアレビューとして発表された100以上の研究がBPAの低用量での顕著な生物学的影響を示しており(そのほとんど半分がこの2年間に発表された)、影響がないと報告しているのは21だけである。彼はBPAへの広範な曝露がヒトの健康へ脅威を及ぼしていると確信している。

(訳注)ボンサールらの研究のOSFによる解説
ビスフェノールAの低用量での影響に関する論文が新たなリスク評価の必要性を示す(化学物質問題市民研究会訳)

 米プラスチック協議会のポリカーボネート・ビジネス・ユニット理事長スティーブ・ヘンゲスはそうではなく、次のように異議を唱えている。”我々の目的として、我々が知らなくてはならないことは、BPAがどのような用量であれ、特に人々が実際に曝露する用量で、ヒトに健康影響を与えるのか?−ということだ。あなたはそのような証拠の全てを見ても、そして特に健康影響を調べるために設計された包括的な研究を見ても、あなたはヒトへの健康影響を見出さない。”

 産業グループはまた、証拠の重みがBPAの低用量影響の概念を支持していないと信じている。”そして、そう言っているのは我々だけではなく、実際に世界中の政府機関は、いかにBPAを規制するか又はそれを規制することを検討するかという点に関しては、事実上同じ結論に達している”とヘンゲスは述べている。彼は過去数年間にこの分野でほんのわずかな新しい研究活動があることを認めているが、”それでも新しい研究は、我々が信じるところでは、証拠の重みを移していない”と述べている。

 EPAはこれらの論点に関し、どのような立場をとっているのか? EPAの研究開発局は、EDC研究の分野におけるEPAの課題と目標を設定するための多年度計画を実施している最中である。この計画はEPAの内分泌かく乱物質研究プログラムの一部であり、このプログラムはEDC曝露と影響を取り巻く科学を包括的に見るために2001年に開始されたもので5〜10年の研究計画を持つ。この統合されたプログラムは、1996年食品品質保護法の下に議会から出されたEPAに対するEDCsのスクリーニングとテスト・プログラム開発の命令と時を同じくして立ち上げられた。

 EPAの立場は、EDCsの公衆への健康影響に関して、及び、低用量手法をEPAのリスク評価プロトコールに導入する必要性に関して、まだ結論は出ていないとするものである。内分泌かく乱物質研究プログラムのディレクターであるイレイン・フランシスは、この種の化合物についての確定的な公衆健康に関する声明を出すためには、もっと多くの研究を実施することがEPAには必要であると述べている。”あなたが、野生生物や実験室のげっ歯類においてそのように多様な有機組織が影響を受けるのを見れば、EDCsがヒトに及ぼすかもしれないどのような影響をも調べるためにヒトについての多くの研究を行うことの重要性を認めるだけの十分な懸念がある”。

 EPAは現在、2001年ピアレビューで達した合意、及び、その後にEPAの要求に基づき国家毒性計画によって出された低用量問題に関する報告に一部対応して、低用量EDC曝露の分野で3つの研究に対し基金を供与している。『内分泌かく乱物質低用量ピアレビュー2001年報告書』の中で専門委員会は、低用量影響は十分に文書化されており、EPAが現在のテスト・パラダイムを修正することを検討するためにちょうどよい時機であるということを認めた。

 ”一般的な総意はこの分野における研究がもっと多く必要であるということであった。その時以来、我々は既存のアプローチが内分泌かく乱物質に対して有効ではないということを示す十分な情報がないということに同意している。しかし、我々はもっと多くの研究が必要であろうとドアを開けて待っており、そしてこの点に関し我々ができる最善のことはこの分野の研究を支援し推進することであり、我々はそれをやってきた”とフランシスは述べている。

 ボンサールは、異なる意見を持っている。”現在実施されているような化学物質のためのリスク評価プロセスでは、最大許容用量が参照として用いられており、典型的には用量範囲の50倍を超えない範囲が今までの研究で使用された最大である。しかし、『がん研究Cancer Research2005年1月1日号』と『環境健康展望(EHP)2005年4月号』の研究は、BPAでは文字通り、有害影響の用量範囲の数百万倍以下を示しており、このような信じられないタイプの矛盾がある時に、EPAが最近立場を明らかにして、テスト・プロセスの一部として低用量テストを実施する意図はないと述べていることは、科学的発見がそこにあることを明示的に無視しているのだから、もはや科学的ベースのプロセスではなく、それは完全に政治によって動かされるプロセスであることを意味している”。

 ニューボールドは彼女の展望から、EDCが低用量影響を持つということは疑いないが、ヒトへの有害影響を文書化するためにもっと多くの研究がなされる必要があると感じている。”我々は、低用量影響が存在するかどうかを議論するために恐るべき多くの時間を費やしている。私を怒らせることは、低用量影響がある、いつでも低用量影響がある、ばかりであることだ。疑問はそれらが有害であるかどうかだ。我々には分からない。そしてその答えを得るための研究を設計すべきである”と彼女は述べている。さらに”この議論を完全なレベルにするために、我々はもっと疫学的調査を行わなくてはならないと考えている。私はそれがマウスで起きることは知っているが、ヒトには何が起きるのか知らない”と付け加えた。

性自認との関連

 それを理論と呼ぶには早すぎる。この点について仮説として検証されていない。ある観察者らは、胎児のEDC曝露は性自認−物理的特性に関わらず、人は彼又は彼女をどのように認識するか−に影響を与えるかもしれないという命題を掲げている。この命題は二つの基本的な概念を前提とする。第一は性同一性障害(性別違和感を感じる障害。あるべきでない性に生まれてしまったと強く感じる。)はもともとは生理学的であり、ほとんどが胎児の神経系発達期の出来事に起因する。第二は子宮内EDC曝露は胎児の神経系発達をかく乱することができ、かく乱する。

Zhou J-N, Hofman MA, Gooren LJG, Swaab DF. 1995
『ヒトの脳内の性差及び性同一性障害との関連』Nature 378:68-70から再掲。

性の基本。
性によってサイズが変化するBSTcとして知られる脳の領域の研究で、
男性から女性への性転換者のBSTcは女性のBSTcと類似しており、
この発見により著者は性自認は脳と性ホルモンの発達の相互作用の結果として
発達するという仮説を支持するとの考えに至った。
 『ネイチャー(Nature)1995年11月2号』に掲載されたひとつの論文は第一の概念を裏付けた。オランダ脳研究所のジアン−ニン・ゾーと同僚らは異性愛の男性、女性、同性愛の男性、及び男性から女性への性転換者について研究した。彼らは、発生学的に男性の性転換者(ホルモン療法を受け、女性になるための不可逆的性転換手術を受けた男性)の中に明らかに女性の脳構造を見出したと報告した。性行動にとって本質的なBSTc(Bed nucleus of the stria terminalis(分界条床核))の中枢区画のボリュームは女性よりも男性の方が大きい。解剖学的調査の結果は、BSTcのボリュームは異性愛の男性と同性愛の男性の間に顕著な差異はなく、異性愛の男性のBSTcボリュームは異性愛の女性のそれより44%大きいことを示した。男性から女性への性転換者ではBSTcボリュームは異性愛男性の52%であり、女性に見られるボリュームと類似していた。著者らはこれらの発見は、”性自認は脳と性ホルモンの発達の間の相互作用の結果として発達するという仮説”を書いている。

 しかし、『脳神経ジャーナル(Journal of Neuroscience)2002年2月1日号』に発表されたウィルソン・C.J. チュンと同僚らの研究はこの写真を複雑にする。このグループもまたオランダ脳研究所であるが、彼らは男女間のBSTcサイズの差異は成人期において顕著になると報告しており、この現象は原因より結果がより大きいかもしれないということを示唆している。しかし、著者らは、出生前と幼児期のBSTcボリュームに顕著な性差がないということはBSTc機能への初期の生殖腺ステロイド効果を除外するものではないと強く指摘している。彼らは初期の動物実験は、ヒトの胎児又は新生児のテストステロン・レベルは初期のBSTc発達期間にまずシナプシス濃度、ニューロン活動、又は神経化学成分量に影響を与えるかも知れないこと、及びパラメータの変更は性自認の発達に影響を与えるのみならず、即座にBSTcのボリューム又は神経単位数に明白な変化をもたらすということの証拠となるとしている。

 一方、『環境健康展望(EHP)2002年6月増刊号』でロチェスター大学環境医学及び小児科教授バーナード・ワイスは内分泌かく乱の指標として性的二形性非生殖行動に関する既存の文献を検証した。ワイスは、脳の性特有領域の差異及び最終的には行動への発現は性腺ホルモンによって調節されており、そのプロセスは薬剤と環境汚染物質による干渉を受けやすいということを強い証拠をもって示した。彼は、演技と行動における性差は発達神経毒性テストにおける認められた基準であるべきであると指摘した。

 それではこれらのことに関係する人物がいるか?

 スコット・カーリン博士はブリティッシュ・コロンビア大学の社会科学者である。彼は、胎児DES曝露の男性に与える長期的健康影響について研究し執筆するとともに、DES及びその他のEDCsに関する国際的科学文献の調査に相当な時間を割いている。彼自身が妊娠中にDESを投与された女性の息子である。

 カーリンは最近、子宮内でDESに曝露したことが分かっている、あるいは強く疑われる男性のオンライン・リソースである”DESの息子国際ネットワーク(DES Sons International Networ)”のメンバー500人の調査を実施した。ノースダコタのミーノトで2005年8月に開催された国際行動発達シンポジウムにおいて発表された論文の中で、150人以上の回答者が何らかの様々な性関連障害を持つと自身で認識していると報告した。カーリンはDESがこれらの性関連障害を引き起こしたと主張はしていないが、彼の研究結果はそのような結果が胎児EDC曝露の潜在的影響に関連する研究に含まれるべきであるということを示している。

今後の展望

 発達期の低用量EDC曝露がヒトの生殖又は性に関連する有害な結果をもたらすかどうかの疑問に決定的に答えることは非常に難しくなっている。科学者らは、主要な課題のひとつは混合物の問題に目を向けることであるということに合意している。典型的には、科学者は一時にひとつの化学物質の影響を見るが、環境曝露では通常予測できない用量と期間で広く変動する化学物質の混合を伴う。多くのEDCsからなる混合物がヒトの生理機能にどのように作用するのかについて包括的な理解は今までにないと思われる。

 ヒトへの有害影響に関する説得力のある疫学的証拠を手に入れることは難しいが、そのことは科学的発見を公衆の健康を守るための確固とした行動に移すために必要であろう。したがって、そのような類の研究の最初のひとつであるスワンの研究は将来の低用量EDC曝露の調査にひとつの方法論的モデルを与えるかもしれない。

 我々は政治及び規制の領域で措置がとられるべきであることを今、十分に知っているであろうか? ある観察者らは予防的アプローチをとることを考えている。例えば、カリフォルニアとニューヨークでは、あるフタル酸エステル類をおもちゃや子ども用品、そして化粧品中で使用することを制限する法案が検討されており、カリフォルニアの法案では3歳以下の幼児が使用することを意図した製品中でBPAを使用することを禁止しようとしている(訳注)。また、欧州議会は2005年に、3つのフタル酸エステル類プラスチック可塑剤(DEHP、フタル酸ジ-n-ブチル、フタル酸ブチルベンジル)をおもちゃ及び子ども用品中での使用することを禁止し、また、他の3種類(フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジ-n-オクチル)を子どもが口に入れる可能性のあるおもちゃと子ども用品中で使用すること禁止することが採択された。

(訳注)カリフォルニアの法案:(サンフランシスコ・クロニクル紙 2005年3月31日)
カリフォルニア州議会 幼児用製品中の化学物質禁止法案を検討−ビスフェノールAがおしゃぶり、おもちゃ、哺乳ビンに(化学物質問題市民研究会訳)

 フロリダ大学の動物学教授で1996年に発行された本『失われし未来』の著者テオ・コルボーンは、今が行動を起こすべき時であると信じている。”動物において、何が起こっていたのかを我々が本当に認識し始めたのは個体群レベルのことであった。もし我々が持っているこれら個体群影響に関する全ての懸念がヒトに現れるのを待とうしているのなら、それは遅すぎる”と彼女は述べている。彼女は、我々は、1930年代中頃あるいは1940年代前半以前には決して使用されたことがなかった化学物質に子宮内で曝露している個人からなる第四世代に既に入っていると指摘する。

 スワンはこの点についてEDC曝露を公衆の健康に対する深刻な脅威と呼ぶために十分な知見があるということについて同意しえてる。”私は、それが個人に対する脅威であるとは必ずしも思わない。しかし私は個体群として我々は脅威に曝されていると考えている。私は生物種やそのようなものの終焉を予測しているのではないが、妊娠できないカップルや停留睾丸の赤ちゃんを持つカップルなど、そして全体として人間という個体群に影響を与えるカップルに関して、警戒すべき状況がが進んでいる様に思う。”

 その他の観察者らはそれほど確信していない。コロンビア大学医療センター男性生殖センターのディレクターハリー・フィシュは男性不妊の診断と治療を専門としている。彼の臨床上の展望によれば、彼は他の曝露を含む他の要素の方がEDCsよりもっと重要であると考えている。”天が落ちてくることはない。高用量曝露から低用量曝露へ外挿するためにたっぷり時間がある。私は、我々が目にする異常に対する最大の犯人は、今まで完全に無視されていたが、それは増大する親世代である。また、我々が低用量化学物質を非難する前に我々自身がしていることを見直す必要がある。例えば、喫煙の害はサラン・ラップの害と比べてどうなのか? 我々が摂取する食物、高脂肪の摂取はどうか? 他を非難する前に我々のライフスタイルの影響を決定するために我々自身を見る必要がある。

 プラスチック・ラップはヒトの不妊に責任はないかもしれないが、EDCsへの環境暴露の影響についての懸念をますます高める科学的証拠は簡単には捨て去ることはできない。バーガーは次のように述べている。”このように多くの化学物質がいたるところにあるのだから、用心(Vigilance)がここではキーワードである。化学物質の影響を理解することは三面作戦である。我々には野生生物モデルがあり、何か有害なことが起こればそれを直ぐに見つけるために野生生物種を観察している人々がいる。全くよい疫学的研究があり、様々な場所で人々が監視している。そしてそれら二つを支えるものとして、問題が発生するとその原因を直ぐに突き止めるために直ちに対応する実験室の科学がある。”

エルニー・フード(Ernie Hood)


(EHP編集部) January 2006 issue (Environ Health Perspect 114:A21):
 EHP2005年10月号の記事 "Children's Centers Study Kids and Chemicals"  [Environ Health Perspect 113:A664-A668 (2005)] 及び "Are EDCs Blurring Issues of Gender?" [Environ Health Perspect 113:A670-A677 (2005)]の中で、写真とタイトルがプラスチック飲料容器がフタル酸エステル類を含有しているような印象を間違って与えている。アメリカで販売されているプラスチック飲料容器はポリエチレンテレフタレートで作られており、フタル酸エステル類を含んでいない。また、内分泌かく乱物質の記事の最後で、プラスチック・ラップとサラン・ラップが引用されている。明確にするために、プラスチック・ラップもサラン・ラップもフタル酸エステル類を含んでいないことを言明する。EHPはこれらの誤りについてお詫びする。
訳注:当翻訳記事では最後のプラスチック・ラップもサラン・ラップの部分が該当する。



化学物質問題市民研究会
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